1. 後輩の成長を促す「教えない」コミュニケーションの重要性
「先輩、このエクセルの関数がうまく動かないんですが…」「この企画書、どう思いますか?」
職場で後輩からこんな質問を受けたとき、あなたはどう応答していますか?多くの場合、「ここをこうすればいいよ」と答えを教えてしまうのではないでしょうか。
実は、この「すぐに答えを教えてしまう」というアプローチが、後輩の成長を阻害している可能性があるのです。今日はそんな「教えない」コミュニケーションの重要性についてお話ししていきます。
1-1. なぜ「教えること」が逆効果になるのか
「後輩のためを思って」教えているつもりでも、実はそれが逆効果になることがあります。なぜでしょうか?
答えをすぐに与えることの問題点:
- 思考停止を促してしまう:答えをもらえると自分で考える必要がなくなります
- 依存関係を強化する:「分からないことがあれば先輩に聞けばいい」という思考パターンが定着します
- 問題解決能力が育たない:自分で試行錯誤する機会を奪ってしまいます
ある調査によると、上司が部下に対して「教える」よりも「考えさせる」アプローチを取った場合、部下の問題解決能力が約35%向上したというデータもあります。
1-2. 「教えない」コミュニケーションのメリット
では、「教えない」コミュニケーションにはどんなメリットがあるのでしょうか?
メリット | 説明 |
---|---|
自立心の向上 | 自分で考え、解決する経験が自信につながります |
創造性の発揮 | 答えが与えられないことで、従来にない解決策を見つけ出す可能性が高まります |
学習の定着 | 自分で考えて得た知識は長期記憶に残りやすいことが脳科学的にも証明されています |
モチベーションの向上 | 自分で解決したという達成感が次の課題への意欲につながります |
あなた自身の経験を振り返ってみてください。誰かに教えてもらったことと、自分で苦労して身につけたこと、どちらがより深く記憶に残っていますか?多くの場合、後者ではないでしょうか。
1-3. 「教えない」と「放置する」の違い
ただし、「教えない」ことと「放置する」ことは全く異なります。後輩が行き詰まっているのを見て見ぬふりをするのはモラルハラスメントにもなりかねません。
「教えない」コミュニケーションのポイント:

- 完全に答えを与えないのではなく、考えるためのヒントを提供する
- 後輩が自分で解決できそうな範囲かどうかを見極める
- 必要に応じてサポートする姿勢を示しつつ、主体性を尊重する
結局のところ、「教えない」コミュニケーションの本質は、後輩の思考プロセスを大切にすることなのです。次の見出しでは、具体的なテクニックについて掘り下げていきましょう。
2. 後輩の「考える力」を引き出す5つの質問テクニック
後輩に「考えさせる」と言っても、具体的にどうすればいいのか悩むこともありますよね。ここでは、後輩の思考を促進する5つの質問テクニックをご紹介します。これらを活用することで、後輩の「考える力」を効果的に引き出すことができるでしょう。
2-1. オープンクエスチョンの活用
「はい」「いいえ」で答えられる質問(クローズドクエスチョン)ではなく、相手に考えさせる質問(オープンクエスチョン)を意識して使いましょう。
効果的なオープンクエスチョンの例:
- ❌「この関数は使えそう?」→ ⭕「この関数を使うとどんなメリットがありそう?」
- ❌「この企画書で大丈夫?」→ ⭕「この企画書のどこを改善できると思う?」
- ❌「この方法で進めていい?」→ ⭕「他にどんな進め方が考えられる?」
オープンクエスチョンは、相手の思考を広げる効果があります。ハーバード大学の研究によれば、オープンクエスチョンを受けた人は、クローズドクエスチョンを受けた人に比べて約2倍の情報を提供する傾向があるそうです。
2-2. 「なぜ」と「どうやって」を使い分ける
問題に直面したとき、「なぜ」と「どうやって」という二つの質問アプローチがあります。
「なぜ(Why)」の質問:
- 問題の根本原因を探る
- 目的や意図を明確にする
- 例:「なぜそのアプローチを選んだの?」
「どうやって(How)」の質問:
- 具体的な解決策を考えさせる
- 行動計画を立てさせる
- 例:「どうやってその課題を乗り越えようと思う?」

ただし、「なぜ」という質問は相手を防衛的にさせてしまうこともあるため、使い方には注意が必要です。「なぜそんなミスをしたの?」ではなく「どうすればそのミスを防げると思う?」と言い換えると効果的です。
2-3. 逆質問法の実践
後輩から「どうすればいいですか?」と質問されたとき、すぐに答えを与えるのではなく、質問を返してみましょう。
逆質問法の例:
- 「あなたならどうすると思う?」
- 「今までどんな方法を試してみた?」
- 「もし成功したら、どんな状態になるイメージ?」
この方法は、相手に「自分で考える」という習慣をつけさせる効果があります。最初は戸惑うかもしれませんが、徐々に自分なりの解決策を考えるようになっていくでしょう。
2-4. 複数の選択肢を提示する
完全に白紙の状態から考えるのは難しいこともあります。そんなときは、複数の選択肢を提示して考えさせる方法が効果的です。
例: 「このデータ分析には、A、B、Cという3つのアプローチが考えられるけど、あなたならどれを選ぶ?それはなぜ?」
このように選択肢を示すことで、ゼロから考えるよりも思考が整理しやすくなります。また、「他にも良い方法があるかな?」と付け加えることで、提示した選択肢以外の可能性も考えさせることができます。
2-5. 振り返りを促す質問
問題解決後の振り返りも重要です。次のような質問で、経験から学ぶプロセスを促進しましょう。

振り返りを促す質問例:
- 「今回の経験から何を学んだ?」
- 「次回同じ状況になったら、何を変えてみたい?」
- 「この解決策のどこが特に効果的だったと思う?」
学習心理学の分野では、「意識的な振り返り」による学習定着率は、単なる経験よりも約40%高いとされています。振り返りのプロセスを通じて、後輩は自分の思考や行動パターンを認識し、改善することができるのです。
これらの質問テクニックを状況に応じて使い分けることで、後輩の思考力を効果的に引き出すことができるでしょう。あなたはどのテクニックを試してみたいですか?
3. 信頼関係を築きながら後輩の自立を支援する方法
ここまで「教えない」コミュニケーションの重要性と具体的な質問テクニックについてお話ししてきました。しかし、これらを実践する上で最も大切なのは、後輩との信頼関係です。「考えさせる」というアプローチが効果を発揮するためには、安心して考え、失敗できる環境が不可欠なのです。
3-1. 心理的安全性の確保
後輩が自由に考え、意見を述べ、時には失敗しても大丈夫だと感じられる環境を作ることが重要です。これを「心理的安全性」と呼びます。
心理的安全性を高める具体的な行動:
- 後輩の意見や提案に対して、まずは「否定」ではなく「肯定」から入る
- 失敗を責めるのではなく、学びの機会として捉える姿勢を示す
- 自分自身の失敗や困った経験も適切に共有する
グーグルが行った「Project Aristotle」という研究では、チームのパフォーマンスを左右する最も重要な要素が「心理的安全性」であることが明らかになっています。安心して考え、発言できる環境があってこそ、後輩は自分の力を発揮できるのです。
3-2. 適切なフィードバックの提供
「教えない」コミュニケーションは、フィードバックをしないという意味ではありません。後輩の思考や行動に対して適切なフィードバックを提供することも重要です。
効果的なフィードバックの3つのポイント:
- 具体的に伝える:
- ❌「その提案はいいね」
- ⭕「顧客の課題を3つに整理した点がとても分かりやすくて良かったよ」
- 結果だけでなくプロセスも評価する:
- ❌「結果が出ていないね」
- ⭕「様々な角度から分析しようとする姿勢が素晴らしい。次はこの視点も加えてみたら?」
- 改善のための具体的な示唆を含める:
- ❌「もっと工夫が必要だね」
- ⭕「この部分にもう少し具体的な数値を入れると、説得力が増すと思うよ」

フィードバックは「批判」ではなく「成長のための情報提供」です。建設的なフィードバックを通じて、後輩は自分の思考や行動をより良い方向に調整していくことができます。
3-3. 承認と励ましの効果的な活用
後輩が自ら考え、行動するためには、承認と励ましも欠かせません。特に失敗や困難に直面したときこそ、前向きな姿勢を保つためのサポートが必要です。
承認と励ましの具体例:
- 「その考え方は面白いね。もっと詳しく聞かせてくれる?」
- 「うまくいかなかったけど、そこまで調べたのはすごいことだよ」
- 「今回の経験は必ず次に活きてくるはず。一緒に考えていこう」
人は自分が認められ、価値を見出されていると感じるとき、最大限の力を発揮します。米国の心理学者マズローの「欲求階層説」でも、承認の欲求は人間の重要な動機づけの一つとされています。
3-4. 段階的な権限委譲
後輩の成長に合わせて、徐々に権限を委譲していくことも重要です。これにより、実践を通じた学びが促進されます。
権限委譲の4段階:
- 見学させる:あなたが仕事をする様子を見せる
- 部分的に任せる:簡単な部分を任せ、サポートする
- 監督付きで任せる:全体を任せるが、定期的にチェックする
- 完全に任せる:結果だけを確認する
この段階的なアプローチにより、後輩は着実に自信と能力を高めていくことができます。もちろん、個人の特性や仕事の性質に応じて、適切なペースで進めることが大切です。
あなたの職場では、後輩にどのような権限委譲をしていますか?少し立ち止まって考えてみると、新たな気づきがあるかもしれませんね。
信頼関係を築きながら後輩の自立を支援することは、短期的には手間がかかるように感じるかもしれません。しかし長期的には、チーム全体の能力向上と職場の活性化につながる重要な投資なのです。
皆さんも明日から、後輩に「教える」のではなく「考えさせる」コミュニケーションを意識的に取り入れてみてはいかがでしょうか?小さな変化から、大きな成長が生まれるはずです。
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