部下の成長につながる叱り方の基本
マネジメントの難しさを感じる場面のひとつに「部下を叱る」という状況があります。あなたも「叱らなければいけないけれど、どう伝えればよいのだろう」と悩んだ経験はありませんか?実は多くの管理職が同じ悩みを抱えています。
なぜ叱り方が重要なのか
叱ることの本来の目的は「相手の成長を促すこと」です。しかし、感情的に叱ってしまうと、相手は萎縮してしまい、むしろ成長を阻害してしまいます。日本能率協会マネジメントセンターの調査によると、「上司の叱り方に問題がある」と感じている社員は約68%にものぼります。
感情的な叱責と建設的な指導の違いは明確です:
感情的な叱責 | 建設的な指導 |
---|---|
人格を否定する | 行動に焦点を当てる |
「〜するな」という禁止型 | 「〜しよう」という提案型 |
一方的に話す | 対話を重視する |
過去の失敗を蒸し返す | 未来の改善に目を向ける |
建設的な叱り方の3つの原則
効果的な叱り方には、以下の3つの原則を意識することが大切です。
- 行動に焦点を当てる 相手の人格や能力を否定するのではなく、具体的な行動や結果に焦点を当てましょう。「君はいつも雑だね」ではなく「このレポートには誤字が複数ありました」と伝えることで、何が問題なのかが明確になります。
- 具体的な改善点を示す 問題点を指摘するだけでなく、どうすれば改善できるのかを具体的に示します。「次回からはチェックリストを活用して、提出前に必ず確認してみてください」といった具体的な方法を提案しましょう。
- タイミングを意識する 問題が発生してすぐに指摘することが理想的です。時間が経つと記憶が薄れてしまいます。ただし、感情が高ぶっているときは少し時間を置き、冷静になってから話し合いましょう。また、人前で叱ることは避け、プライバシーが確保される場所で行うことも重要です。
NG例とOK例の比較
NG例: 「このミスで顧客を怒らせてしまったじゃないか!いつもそうだよね。もっと責任感を持ってよ!」
OK例: 「今回の納期遅延について話し合いたいんだ。顧客からクレームがあったけど、どういった原因があったと思う?今後どうすれば防げるか一緒に考えよう。」
感情的になりそうなときは、深呼吸をして「自分は今、相手の成長を促すために話している」ということを思い出してみてください。あなたの叱り方一つで、部下の反応やその後の成長が大きく変わってくるのです。

感情に訴えない叱り方のテクニック
感情に訴えない叱り方をマスターするには、具体的なテクニックを身につけることが効果的です。ここでは、すぐに実践できる方法をご紹介します。
「I(アイ)メッセージ」を活用する
「I(アイ)メッセージ」とは、「あなたは〜」という相手を主語にした表現(Youメッセージ)ではなく、「私は〜」という自分を主語にした表現を使うコミュニケーション技法です。
Youメッセージの例: 「あなたはいつも報告が遅いよね。もっと早く報告してよ。」
Iメッセージの例: 「納期に間に合わせるためには、もう少し早く進捗報告をもらえると助かります。遅れると他のメンバーの作業にも影響するので心配なんです。」
Iメッセージを使うことで、相手を非難しているという印象を与えずに、問題点を伝えることができます。また、自分の気持ちや考えを素直に伝えることで、相手も防衛的にならずに受け止めやすくなります。

実践するときのポイントは:
- 自分の感情や考えを正直に伝える
- 具体的な状況や行動に言及する
- 相手への要望を明確に伝える
サンドイッチ法による指導法
サンドイッチ法とは、「肯定→改善点→肯定」の順序で伝える方法です。批判や改善点だけを伝えるのではなく、相手の良い点も一緒に伝えることで、受け入れやすくなります。
実践例:
- 肯定:「この企画書は、市場分析が非常に詳細で説得力がありますね。」
- 改善点:「ただ、予算計画の部分がもう少し具体的だといいと思います。例えば、各項目の内訳をもう少し細かく示せるといいですね。」
- 肯定:「全体的な構成は素晴らしいので、この予算部分を改善すれば、さらに説得力のある提案になると思います。」
この方法は特に、新人や自信がない部下に対して効果的です。ただし、形式的になりすぎると逆効果になることもあるので、本当に良いと思う点を伝えるようにしましょう。
みなさんは、部下への指導でどのような点に苦労していますか?「I(アイ)メッセージ」やサンドイッチ法を試してみることで、もっとスムーズなコミュニケーションができるかもしれませんね。
言葉選びのポイント
効果的な叱り方では、言葉選びも重要です。以下は避けるべき表現と、より効果的な言い回しの例です。

避けるべき表現:
- 「いつも」「絶対」などの極端な言葉
- 「〜できないの?」という否定的な質問
- 「やる気があるの?」などの人格否定
- 過去の失敗を蒸し返す発言
効果的な言い回し:
- 「次回は〜してみませんか?」という提案型
- 「私なら〜します」という自分の視点の共有
- 「どうすれば〜できると思いますか?」という質問型
- 「〜という点は素晴らしいです」という肯定的な表現
言葉は相手の心に直接届くものです。少しの工夫で、同じ内容でも伝わり方が大きく変わることを意識してみてください。
叱った後のフォローアップとモチベーション維持
叱ることは一時的なものではなく、その後のフォローアップも重要です。適切なフォローがなければ、せっかくの指導も効果半減してしまいます。
適切なフィードバックの継続
叱った後は、相手の変化を観察し、適切なフィードバックを継続することが大切です。改善が見られたら、具体的に認めて褒めることで、行動の定着を促します。
改善点の確認方法:
- 定期的な1on1ミーティングでの振り返り
- 業務の中間段階でのチェックイン
- 具体的な行動変化の観察
- 本人の自己評価と上司の評価の擦り合わせ

成長を促す声かけの例:
- 「前回話し合った◯◯については、改善されていますね。特に△△の部分が良くなっています。」
- 「チームメンバーからも、あなたの◯◯の対応が良くなったという声が上がっていますよ。」
- 「まだ課題はあるけれど、確実に成長していると感じます。次は◯◯にも挑戦してみませんか?」
信頼関係を構築するコミュニケーション
叱りが効果的に機能するためには、日頃からの信頼関係が土台となります。「この人は自分の成長を真剣に考えてくれている」という信頼があれば、叱られても素直に受け止めることができます。
1on1ミーティングの活用法:
- 業務の話だけでなく、キャリアや将来の展望についても話し合う
- 相手の話をしっかり聴く時間を作る(話す時間よりも聴く時間を多く)
- 自分自身のことも適度に開示し、双方向のコミュニケーションを心がける
- 定期的に行い、問題が大きくなる前に小さな課題に対処する
日常的な関係性づくり:
- 些細な成功も見逃さず、タイムリーに褒める
- 困っているときにサポートする姿勢を示す
- 仕事以外の話題でも適度に会話する
- 相手の強みや特性を理解し、それを活かす機会を提供する
あなたは部下との信頼関係づくりに、どのような工夫をしていますか?日々のちょっとした行動や言葉が、大きな信頼関係につながることを意識してみてください。
組織全体の心理的安全性を高める取り組み
個人間のコミュニケーションだけでなく、組織全体の雰囲気も重要です。心理的安全性が高い職場では、叱られることも「成長のための機会」として前向きに捉えられます。
- 失敗を学びの機会として共有する文化づくり
- 定期的な振り返りミーティングで、失敗事例と学びを共有する
- 上司自身も失敗体験を率直に話す
- 多様な意見が尊重される環境づくり
- 会議で全員に発言の機会を設ける
- 少数意見も丁寧に聴き、その価値を認める
- 成功を共に祝う習慣をつくる
- チームの小さな成功も見逃さず、全員で共有する
- 個人の貢献を具体的に伝え、感謝を示す
部下を効果的に叱ることは、マネジャーとしての重要なスキルです。感情に流されず、相手の成長に焦点を当てた建設的な叱り方を実践することで、部下は成長し、チーム全体のパフォーマンスも向上していきます。まずは今日から、ひとつでも実践してみてはいかがでしょうか?
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